大阪市旭区は、住宅と町工場が混在する静かな街。そこに、大仏師 向吉悠睦の工房「あさば仏教美術工房」がある。
2メートルほどの一木で制作されたという迫力の観音像が安置された応接間に通され、軽く言葉を交わしてみる。関西人特有の明るい人柄と、幼少より仏像に関わってきた独自の感性、そして僧侶のような優しさを感じた。
工房ではたくさんのお弟子さんたちが、寺院から依頼を受けた仏像の修復をしていた。そこへ向吉先生が現れ彫刻を始めると、場の空気が一変。自在かつ大胆な荒彫りの一刀が「カン!」と高く響き、大きな木材から徐々に仏像が姿を現わす様に、大仏師の技量を見せつけられた。
ひとたび工房を離れると、向吉先生はもとの柔和な表情に戻り、様ざまな話を聞かせてくれた。こちらからの質問に理路整然と答える姿に、向吉悠睦の確固たる信念を見た。